なんだかんだで20年

    5年ぶりくらいに付けペンを持って描いた16ページの漫画が賞を取って、編集さんに「じゃっ、これでデビューということで!」ととてもライトに言われたあの日から、なんだかんだでもうすぐ20年が経とうとしています。

    まさかこの16ページがきっかけで、20年もの間、絵を描くことを生業にできるとは思いもしませんでした。漫画の投稿をしていたころは先のことなど本当にな~んにも考えてなくて、日本中の漫画家志望者さんから助走つけて殴られそうなくらい、何の覚悟もなく、無計画だった私が、ですよ。もちろん、な~んにも考えてなかったのは投稿していた頃の話で、「仕事としてやっていく」と決めた時から先は、それなりの努力もしたし、本気で向き合ってきたつもりです。

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    前にどこかに書いたかもしれないんだけれど、私、デビューする数年前に担当さんが付いたことあったんです。その担当さんとやり取りして1作描いて、賞を取って本誌に掲載もされたんだけど後が続かなくて、自分が描くのをやめたのか担当さんから連絡来なくなったのか忘れたけど、フェードアウトしてしまった。正直な所、漫画家という職業にそれほどこだわりがなかったので、「実力不足だったのね~仕方ないわ~」とそのまま数年。リアルが忙しく、年齢とともに創作のモチベーションも変わってきて、漫画を描くことは若いころの趣味として、過去の話になるのかな~なんて考えていたのですが。

    なんでだったんだろう。ある時、なんとなく、また描きたくなってしまったのです。きっかけや理由はよくわからない。いつの間にか自然と、また原稿を描き始めていました。

    当時は今のようにネットで公開する場も無く、誰かに読んでもらうためには同人誌を作るか商業デビューするしかありませんでした。同人誌は一時期友人と作っていたけど、サークル解散してからは一人でイベント参加する勇気もなくて、それでも漫画だけは描きたくて。

    とりあえず描いたはいいけどコレどうしよう?そうだ、投稿したら何か反応(感想)もらえるよね。どの雑誌に?前と同じとこでいっか!どうせ誰も覚えてないよきっと~大丈夫大丈夫~。

    そんな感じで。…今思えば、よく恥ずかしげもなく送ったなぁと思います。一度挑戦して上手くいかなかった雑誌にさ。何年も経ってるとはいえ、特に実力や画力が上がったわけでもないのに。本当に何を考えてたんだろう当時の自分。

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    20年の節目だし、自分が覚えているうちに…と、出版社に預けたままにしていた原稿を回収し始めました。前も書いたように、ティーンズラブジャンルの作品は電子配信に、それ以外の作品は自分で本にまとめようかなと考えています。

    デビュー当時の原稿返却を依頼するにあたり、W誌の編集部に問い合わせてみたら、なんと元担当さんがまだ在籍していらして!懐かしく、お話させてもらいました。預けていた原稿は雑誌未掲載のものもあり、自分でも何作描いたかわからなくなっていたのですが、元担当さんは過去の記録を確認して調べてくれました。編集さんって、ホントに事細かに記録を取る人たちなんですね。たくさんの作家さん達とやり取りするから記録は必須なんだろうけど、自分でも覚えていない没プロットのタイトルまで出てきてビックリ!連載作家ならわかるけどー!十数年もやり取りしてない過去の作家の執筆状況とかー!問い合わせメール送った2時間後には「返却原稿発送の準備が整いました」って連絡来るんだよ!?有能すぎませんか??!

    返ってきた原稿には丁寧なお手紙が添えられていて、過去作品に対する好意的なコメントがありました。その気遣いが嬉しかったです。ファンレターと一緒に、執筆の原動力としてデスクに飾っておこうと思います。

    昔は漫画家という職業にこだわりはありませんでした。漫画が描ければプロでもアマでもなんでもよかった。でも、今は仕事として漫画を世に出すことに意味があると感じています。どっちが偉いとかいうのではなくて。

    今のこういう考えになるまでにはいろいろな経験が元になっていて、またこれから新しく体験する出来事や出会う人によって、考え方も変わっていくのかもしれません。変わった先の私は、どんな漫画を描くんだろうなぁと、ちょっと楽しみにしていたりします。